昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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叔父の中の戦争――(15)

2007.10.26 (Fri)

十五年前、俺は奥田に誘われて、広島に移る決心をした。
大学を卒業してすぐに、大阪のプロダクションに入社して二十年。それまでの人生の半分以上を大阪で過ごし、血の一滴まで大阪が染まった俺が、一年半悩んだ末の決断であった。
奥田からの話しは共同経営ということであった。しかし、大阪と広島では仕事上、まったく違う環境であることや、多少子どもじみているが、地元の人たちと上手くやっていけるのかどうかの不安もあって、共同経営の件は保留にした。

広島行きは、家族から猛烈に反対された。多くの友人からも〈二人きりで仕事をするのは難しい〉と反対されていた。

あれはちょうどバブル経済が崩壊するニ、三年前のことであった。
俺が勤めていた会社も例に漏れず、“飛ぶ鳥も落とす勢い”であった。七十名足らずの会社は、あの数年で百二十名を超える大所帯になり、その頃、俺はCRを任されるようになっていた。

業界の人間ならありがちなことだが、もともと集団生活があまり好きではなかった俺は、その頃、既に“自分の城”のようなものを夢見ていたと思う。そんな気持ちが奥田に届く筈はないのだが、ある日突然、〈夏海くん、実は前々から計画しとった事務所の件、やっとできそうじゃけー、ちょっと相談にのってくれんやろか〉と、真剣な面持ちで話しかけてきた。

大手広告代理店に勤めていた奥田とは、長年一緒に仕事をしてきた仲であったし、独立の件は前々から聞かされていたが、まさか一流の企業を退職してまで、本気で考えているとは、正直驚いた。
〈春には地元で設立することになっとるんじゃ〉
〈思い切った話しですね。一体何で?〉
〈いやっ、別にケンカして辞めるのではないのんじゃ。俺たちは結局、最終目標は“自分の城”を目指すことなんじゃ。そうは思わんか?〉

“自分の城”。
俺の中で、この言葉が何往復もしていた。
〈ところでな〉と、身をのり出して奥田は言った。〈実は、事務所の準備はもうできてるんじゃけど、どうしても、もう一人ふたり要るんじゃ〉
〈・・・・・・〉
〈それでな、夏海くんとは長年仕事をしてきて、気心も・・・あれや、何ていうか、うまくやっていけると、そう思ったんじゃ〉


他人(ひと)から本気で誘われるのは誰だって悪い気はしない。ましてや“自分の城”などと耳障りのいい言葉を聞くと、さすがの俺もグラッときてしまった。だが大阪でではない、まったく縁も所縁もない広島だという。

こともなげに奥田は言ったが、こっちは今まで積み上げたものを捨てなければならない。贅沢こそできないけど、生活もそこそこ安定していたし、責任あるポジションで信頼されていると感じていた。それに大阪に何の不満もなかった。むしろ居心地のいいパラダイスのようなものだったから、よほどのことがない限り会社を辞める気はなかった。その時点では。

その後、奥田は何度か大阪を訪ねる度に、どんどん話しを進めてきた。自宅にまで押しかけて来たこともあった。

それから一年半、俺は悩み続けた。上司から何度も慰留されたし、家族を見る度に不機嫌な顔がありありとしていた。
しかし、結局それらの総べてを振り切って決心をした。

勤続二十年を少し超えたある日、広島へ発った。
奥田は、俺が着くなり目を細くして迎えてくれた。懇意にしている系列の有力者に次々と紹介され、業者や地元のスタッフなどにも引っ張り回された。顔を合わせたからといって、大阪のように簡単にはいかない微妙な距離間を感じたが、二十年のキャリアが看板となって、ともかく俺たちの“城”のスタートラインは明るいものであった。

仕事の量は大阪の頃のそれと、何も変わらない。それより、何もかも総べて自分でやらなければならない煩雑さに、暫く戸惑ってしまったほどだ。
事務所内は、気持ちの悪いほど静かなものであったが、それもその筈、奥田は殆ど毎日、営業に出かけていなかった。
営業の経験がない俺は、新しい仕事を開拓することの大変さを、彼を見て思った。だが、ひとり残された俺は、日一日と溜まっていく仕事と格闘しなければならない。以前のような便利な機材もない不自由な中で、手探り同様仕事をこなし、日にニ、三度お得意へ出かけて打ち合せをし、事務処理や足りなくなった画材を調達しに出かける。もちろん東京や大阪や、時には九州へも出張しなければならなかった。

そんな日が延々と続き、慌ただしく二年半が過ぎた。
連日のように顔を合わせる相手とも心安くなり、ようやく地元の人たちに認知してもらい始めた頃、奥田の様子が妙に気になり始めた。
奥田とは、長年一緒に仕事をしてきたということもあって、気分の浮き沈みが激しいことくらい以前から承知していた。だが・・・。

   つづく

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