昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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ちょっと短編を書いてみた

2015.02.28 (Sat)

月の夜

硬質の月

 今日が一体、何曜日なのか分からなくなることがある。それというもの、メグが夏休みだからだろう。

 役場から帰ってみると、メグはダイニングで夏休みの宿題を広げたまま、うたた寝をしていた。毎日、沙希と一緒に起きて畑の世話をし、迫田の手伝いと、沙希の留守の間に田んぼの世話をして、勉強もしなければならない。

 文句ひとつ言わずに、さぞ疲れているだろう。その上、温泉を造ることになってしまって、余計な仕事が増えてしまった。村長や迫田や村の人たちは、家族と思って面倒をみると言ってくれたが、そこまで甘えていいものだろうかと思う。

 スースーと細い寝息をたてて眠るメグの横で、そっと添え寝をしてみる。ベランダから爽やかな風が通り抜けて、ヒラヒラとカーテンがウエーブする。

『彼岸へ行けずにいとる人たちの霊が、まだこの辺に彷徨っとる』と丸岡が言った。康平もその中にいるのだろうか、と沙希は思う。あの世とこの世の境には、どんな壁があるというのだろう。もしかしてまだ、この世のどこかで彷徨っているとしたら・・・。でも、あの時の電話は・・・、確かに康平のものだった。

 もっと早くケイタイを持っておくべきだったと思う。大阪に住んでいた頃から沙希は、ケイタイというものが何となく嫌だった。いつも監視されているようで、いつも追いかけられているようで、落ち着かなかったのだ。

 湯瀬に移ってからも、康平にさんざん言われた。「家にあると言うけど、畑では聞こえへんやろ?」と。それでも、とうとうケイタイを持つことはなかった。

 ケイタイを持つようになったのは、康平がいなくなってからだった。彼を捜し歩いていて、知り合いから連絡がとれないからと言われ、仕方なく手に入れたのだった。でも、一旦手に入れると案外便利なものだった。

 家にも置き電話があるというのに、ついついケイタイを使ってしまう。たぶんそれは、いちいち電話口まで行くのが面倒になったのだろうと思う。

 沙希はTシャツにも、ケイタイを入れるポケット付きのものを着ていた。薄着しかしない暑い夏は、特に便利だと思う。沙希が今着ているシャツは、康平が愛用していたものと同じタイプのものだった。

 大阪にいた頃に、康平は知り合いのテーラーから、何枚も購入していて、ついでにと、沙希用のSサイズのものまで5、6着手に入れてくれていたのだ。初めは少し違和感があった。シャツの左下に入り口があって、そこからケイタイを入れる。取り出し口はポケットの下にあって、親指を押し出すようにすると、スルッと出てきた。

 どんなに動いても落ちない構造になっていて、畑仕事をしていても、田んぼの中に落ちてしまうことはないし、便利この上ない。康平がこの姿を見ていたら、きっと笑うだろう。『ええやん! カッコええやん! そやから、ええ言うたやろ?』と。

 でも康平は、私のケイタイ番号を知らない。知らずにアッチへ行ってしまった、のだろうか?
 沙希は、電話の横のメモ用紙を引きちぎって、ケイタイ番号とアドレスを書き入れた。何枚も。そして、それを部屋のあちこちに貼った。

 康平は、このメモを見てくれるだろうか? 見つけて、メールくれるかも知れない。
 メグは相変わらず、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。
 ノートに落ちたヨダレを、そっと拭いてやる。

 沙希は、ダイニングテーブルに両肘を置いて、メグと同じようにして頭をあずけた。
『・・・行けずにいとる人たちの霊が、まだこの辺に彷徨っとる』




 いつか見た硬質の月が、四角い窓の外に浮かんでいた。あれは確か、康平と初めて肌を合わせた夜だった。腕枕になっていたそれを、そっと抜いて、彼は月を見ようとしていた。夢を見ていたような気がした。暖かい彼の腕で、半分だけ見開いた目の中に、ぼんやりと映った。

 美しかった。欠けていたのか、満ちていたのか憶えていないが、鮮やかな銀色に光る月だった。でも、そんな美しい月よりも康平の温もりの方が大事だった。

 あれから何度、そんな月を見たことだろう。その度に、いつも康平が横にいた。あの嵐が来るまでは。



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