昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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将太の夏休み(4)

2007.07.26 (Thu)

------ドードーブチ------

将太たちの集まる場所は、いつも決まっていた。
将太は繁男を待たず、庭の端の少し傾斜した石段を一気に飛び越え国道に出た。渇き切った国道を、土埃を上げながらトラックが走り抜ける。埃が舞う国道を横切り、狭い脇道から繁男の家の田んぼに繋がる農道へ降りた。

「将ちゃん、何してたん」
隣家の広子が待っていた。待ちくたびれたのか、せわしなくピョンピョンと跳ねながら言った。夏休みが始まったばかりなのに、広子は既に真っ黒に日焼けしていた。
「干し草の手伝いしよったんや」
将太より一つ年下の広子はいつも元気がいい。悪さばかりする年上の男の子たちの先頭にたち、監視するのが自分の役目と思っていたようだ。

「僕が先に行く」
そう言いながら繁男は、将太と広子の横をすり抜けた。
手拭い一枚、頭の上で振り回しながら脇道を走った。
脇道から畦道になる当たりから、やじろべいのような恰好で両手を広げ、等間隔に植えられた豆の木の上を、飛び越えていった。畦道は所々ひび割れて、蒸すような暑さで泥くさい臭いが漂っていた。

畦道から脇道へ飛び下りると、春来川にかかる木造の橋がある。将太たちは、橋まで一気に来ると、次々に服を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。
橋ゲタの少し窪んだ部分から、大きな岩が河原に向かって落ち込んでいる。
繁男たちは膝を曲げて、その岩をズルズルと滑り降りると、一直線にドードーブチの方へ向かっていった。
将太は繁男の行方を確かめると、繁男が脱ぎ捨てたモノを橋ゲタの暗い部分へ落とした。そして、何喰わぬ顔をして繁男たちの後に続いた。

「将ちゃん、何しとん。お前、いっつも遅いわ」
繁男の声が、細長く畝った川の中で反響した。
将太は、繁男たちがしたように岩を滑り降りると、浅瀬を這いながら滝壷の入り口に辿り着いた。
「将ちゃん、ここは深いぞ。・・・将ちゃんはちょっと無理とちゃうか」
「アホー。そんなもん知っとるわ」

一年振りに入るそこが、確かに深いことは将太も百も承知である。誰にも気付かれることはなかったが、2年生の夏休みに初めてこの滝壷に入って、危うく溺れるところだった。将太の背丈では、滝壷の底に足が届かなかったのである。
将太は、その恐怖を忘れていた訳ではなかったが、自分の領域であるドードーブチで、何かにつけ指図して威張りくさる繁男の手前、弱味を見られたくなかったのである。

川はともかく国道から春来川を挟んで、両側の田畑も、その遥か向うにある山も、川岸にある竹林も、すべて繁男の家のものであった。したがってここへ来る脇道も、木造の橋も、そのために繁男の家の先代が自前で造ったのだった。
将太は、そのことは分かっていた。ただ、この当たり一帯が繁男の家の領域だというだけで、ドードーブチへ行くには、繁男を誘ってからでないと行けないような習慣に、納得いかなかったのであった。将太は、それが悔しかった。そして、常々その威張りくさった繁男を、いつか懲らしめてやろうと思っていた。

源流に近いこの当りでは、土用の丑の日が過ぎても水の中は少し冷たい。長い間水の中にいると、身体が痺れるほど冷えてきた。時にはその冷たさに、“こむらかえり”を起こすこともある。

ドードーブチは四畳半ほどの丸い壷型になっていて、滝の下は小学生の高学年でも足が届かないほど深くえぐれている。そしてその上は、両側から大きな岩が迫り出し、V字型の水が勢いよく下の壷へ落ちていた。
ドードーと音をたてながら。 

岩の横には、大きな合歓の木が、青々と繁り、丸い壷にすっぽり蓋をしていた。合歓の木は梅雨が終わる頃、フワフワとした美しい桃色の花をつける。
将太たちが夏休みに入る頃には花も落ち始める。
落ちた花は川面に揺れながら、茶色い醜い塊となって、隅の方にプカプカと浮かんでいた。

滝壷の上の少し上流に湧き水の出る処がある。細かい砂を揺らしながら年中湧き出していた。シダや苔の合間から出る湧き水は川の端をつたい、暖まる暇もなくドードーブチに落ちた。

滝の下に潜ると、股間が縮み上がるほど冷たかった。
将太は、唇を紫色にして震えながら、河原にある大きな岩に身体をあずけた。
冷えた腹や股間が徐々に温もり、何とも言えない幸せな気分であった。
お腹が温まると反転して背中である。背中が暖まると、また反転して耳を押し付けた。
ゴロゴロ耳の奥が鳴り、水の抜けるのが分かった。
暫くすると、生温かいものが股間を伝い、川の中へ融けていくのを感じた。
小さな泡粒が岩を伝い、白く細い帯となって流れていった。

「将ちゃん、素もぐり競争しよう」繁男の声が飛んできた。
潜ろうとしていた繁男の姿が、飛沫の中に一瞬消えた。
将太もその飛沫の中に再び入った。
向かい合った将太と繁男は、鼻をつまんだまま壷の中へ消えた。
耳の奥でゴボゴボといった音が聞こえた。
水圧で目が飛び出すかと思った。

合歓の木の隙間から、夏の強い日射しが、将太たちの戯れる壷の中で、キラキラと揺れていた。

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コメント

コメント、ありがとうございます。

あの現実(独居老人らしい人が手術代を心配していること)は、救急で母を病院に運んできて、救急患者が少しの間置いておかれる隣のベッドの方でした。ぼくは母の横に付き添っていたので、イヤでも会話が聞こえてくる―――そんな状況でした。

母はともあれ一段落しましたが、でも、あのときの会話とその後の先生の電話内容は重く心に残っている。あの患者さんはなんて惨めな思いをしているのだろうか…と思ってね(ちょっと適切な言葉がみつからないんだけど)。

そして、年金、天下り等で「行政にたずさわる人間」のズボラ(=結局は泥棒根性とその行為)。そして2人の農相みたいに「立法にたずさわる人間」があきらかな不正(泥棒行為)を、法律を盾にして逃れる。

特に、『立法府である代議士が「法律を盾にする」』というのは言語道断であり、ある種、ある集団の独裁のイメージに近いわけです(実際、そうなんだろう)。

だって、自分たちが法律を作って、その法律で自分の行為は許されているだ!と二人の農相は主張した(ている)わけです。自分で法律を作って、その法律では自分のやっていることは正しい! これは何ですか? 高級車を乗りまわしている絆創膏ヤローも、自殺したあいつも言っていた。

つまり、立法(法律をつくる)とは、現状では「自分の不正を守るために=泥棒行為を守るために」行使されていると言えるわけです。絆創膏ヤローも自殺男も、彼らをお友だちとしている人たちも、この意味では同じ穴のムジナなわけです。

選挙だけが彼ら(立法府の人間)を脅かすものだけど、これが日本では機能していない。

日本の村落共同体的な集団性で、たとえば後援会組織とか労働者組織(自治労なんか理屈的によくわからない。多分、最初っから労働者組織ではなく、利益誘導団体だったんだ)とか、ま、いろんな社会的圧力のなかで選挙が「選挙」になっていない。選挙が形骸化している。

とはいえ、無党派も出てきたことだし、旧来の組織選挙ではうまくいかなくなってきた(ぼくの考えでは「無党派層」の出現は喜ぶべきことです。だって、ほんとうの意味で自由な選択が出来るのだから)。

こうした状況の出現とともに、彼ら(代議士連中)は、4年と6年に一度の「嘘つき大会」をするようになってきた。だって…タレント候補やプロレスラー候補なんて、その前身は「嘘を演じる人間」ということなんだから、このことは絶対的真実なんですよ。

社会も個人も、日本はいまだ近代になっていない。この意味での日本は、北朝鮮よりはマシ、中国よりはマシ、韓国よりはまだマシだろうけど、フィリピンよりは劣る。ベトナムはどうなのか…。
と、思っています。

目を転じれば、日本はロシアよりはかろうじてマシ、東ヨーロッパはよくわからないけれど、ま、大枠ではヨーロッパの国々からは差をつけられているということではないかなあ。ヨーロッパのことがよくわからないので。

ぼくがフランスの小説に興味をもったのは随分以前ですが、こんなこともあった。アメリカのことは比較的わかったし、日本もそれに追随していた(60年代からそうだった)。

ともあれ、アジアの小国でしかない日本。選挙も「政治と金」もなにもかも、このことを再認識させられました。

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