昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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叔父の中の戦争――(18)

2007.11.11 (Sun)

閉鎖的な社会で、胃が痛くなる思いをしながら築き上げた総てのものが、一瞬にして崩壊してしまった。今までの奥田への不信感がなければ、或いは、一度は我慢したかも知れない。我慢して“貸し”を作る手があったのかも、と。

数日後、病むを得ぬ用事で、円山のいる代理店へ行かなくてはならなくなった。あの一件がそのまま重くのしかかっていたものの、敢て明るく振舞った。しかし・・・。
顔見知りの誰一人挨拶を返すものもなく、冷ややかな視線ばかりが突き刺さった。盗作の主犯は俺であり、〈大阪から来て、偉そうにしていたが、何だ! 結局、お前は泥棒だったのか〉という目であった。

パートナーから受けたこれ以上ない裏切り行為。あかの他人ならば誰憚ることなく、ありのままを暴露したかも知れない。
だが、〈夏海さんに罪はないことは承知していますが、我が社は奥田さんに色々お世話になっていますし、うちのオーナーとの関係もあるので、ここは暫く我慢してもらいたい〉と、円山はこう言った。自分の立場上、言わざるを得なかったのだと感じた。

後ろ足で砂をかけるような奥田はともかく、要領の分からない円山を常にフォローし、親身にしていた彼からも〈煮え湯を飲め〉と言われる。やっとの思いをしてノーチェックで入れるようになった代理店内も、手の平をかえしたような態度である。

代理店を出た俺は、その足で電車に飛び乗っていた。
“自分の城”であった筈の、部屋の空気を吸うことさえ耐えられなかったのだ。通りを歩いても、何も知らない駅員さえも犯罪者を見るような目に映った。
夏に入ったばかりの空に、どんよりと重い雲が覆い、不快な小雨が降っていた。

無意識に乗った列車が岡山を過ぎ、徐々に大阪が近づくにつれ、俺は今、何をしようとしているのかを、ようやく考え始めていた。
家族の反対を押し切り、友人の忠告も聞き入れずに広島に来てしまったのは、他でもない俺自身なのだ。こんな気持ちで大阪に行って何になるのだ。友人に会ったところで何が癒され、何が解決するというのだ。それは単に、傷付いた情けない顔を晒すだけで、何の解決にもならない。

落ち着かない気持ちを振払うように姫路で降り、その夜、俺は城崎のホテルに入った。
ともかく、この苦しさから逃れたかった。苦しみを少しだけ後回しにして、今夜だけは何も考えずにいようと思った。しかし、次から次に頭に浮んでくるのは、扉を蹴破り出て行く奥田の後ろ姿と、妻の顔であった。
〈だから言ったでしょう。あれほど反対したのに〉
〈分かってる!〉
いや、俺は何も分かっていなかった。妻の気持ちなど。
〈何故、あの時・・・〉

〈あの時何故、死ななかったんや、ワシは。人の道を外してまで殺すつもりいはなかったんや、ワシは〉と叔父は何度も言った。
やらなければ自分がやられるだけだ。生きるためには、そうするしかなかったのだ。たとえ自分の死と引き換えに抵抗したとしても、何も変わりはしなかった。己の死の恐怖に怯えた仲間が、人間としての尊厳を置き去りにした仲間が、皇国の死命の元に同じことを繰り返すまでだ。そしてその仲間が死ねば、また、一銭五厘の赤紙で、次から次にへ送られてくる。“神の子”という名の悪魔になって。


昭和二十年八月下旬。章吾たちは遠征地の、北平の南方・石家荘で日本軍の敗戦を知った。
敗戦と同時に、軍は怒濤のように引き揚げ列車に乗り込んだ。行き先は“コロ島”“大連”“旅順”。そこからは一路、本国へ向かうのだという。

   つづく
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