昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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コエタンゴ

2008.06.10 (Tue)

農家が一段と活況を帯びてくる頃、村のあちこちで”田舎の香水”なるものが漂う。
”田舎の香水”。
なんと懐かしい響きだろうか。今となっては、シャネルにも勝るとも劣らない貴重な香りである。

とはいえ、今でも、どこかのどかな田園を散策すれば、どこからともなく漂ってくるであろう芳しき香りである。
ななっ、何の臭いか? くっさー!

自然農法が見直されてきた現在とはいえ、まだまだ科学肥料に頼っているわけだから、”田舎の香水”などと言われても、何のことか知らない人が多い。がしかし、我々世代以上ならば、誰でも憶えがあろう香りなのだ。


僅か11戸の家が国道と春来川に添うように点在し、急斜面の田畑が村を挟む。そして、その先に三角形の険しい山々が連なる、いわば限界集落がボクの生まれ育ったところである。

時代に取り残された村。耕地整理が進まないそこに、いくら便利な機械といえども、宝の持ち腐れに等しく、それに、まだまだ農薬や化学肥料が高価な時代であった。殆どの農家は人力と天然肥料に頼るしかなかった。

もちろんそんな田舎だから、下水道完備などある筈がない。だから、農作物の栄養分は家族や家畜の”落とし物”で補っていたのである。それで、あの芳しい香りを漂わせていたというわけだ。

近頃、何かと世間を騒がせている「食事情」。楽を知れば、もう元に戻れない。けれどよく考えてみると、あの時代の食べ物ほど安全で理想的なものであるのは間違いない。

ともかく無駄なものは一切なかった。それが普通であった。人間はもちろん、農耕の主力とも言える牛は、年一度子牛を産み、それが肉牛となって供出される。親牛の”落とし物”は、やがて食卓を彩る食品へと変わった。

化学肥料を使わないから、土壌が荒れることがないし、土中の生物が死に絶えることもない。だから、田んぼや用水路にはドジョウやタニシがたくさんいて、我が家の貴重なタンパク源になった。

ただ、無害な作物を作るということは、つまり、それなりに疲れることでもあった。特に牛の”落とし物”は重かった。納屋に敷き詰められた寝床用の藁は、糞尿が思い切り混じっている。

月に一度ほど特殊な農具で掻き出して、一カ所に積み上げる。”落とし物”をそのまま使えば、作物にとって毒になるから、数ヶ月の間放置し、醗酵させた上で耕作前の田んぼに広げるのである。

人間の”落とし物”も同様である。当時はどの家庭でもオツリの来る汲み取り式、しかも、4、5人は有に入れる風呂桶くらいの大きさはあった。
汲み取りの朝は慌ただしい。一旦、便所のフタを開けると暫く”用”は足せない。屋敷中に高貴な香りが漂うからである。

習わし通り、世帯主がフタを開ける。大小様々なそれを、長い柄のついた大きな杓で容赦なく掻き混ぜるのである。
「どっぷん、どっぷん」。

こうなったらもう、どうしようもない。逃げるが勝ちなのだ。

世帯主の手によって製造された”原液”を、一斗缶ほどの容量の木桶に入れてリヤカーへ。それを目的地まで運んだ後、一桶づつ天秤棒で担いで、一定の場所に入れて溜めておく。

地方によって呼び方は様々であろうが、木桶に入れた”落とし物”のことを、ボクの村では”コエタンゴ”と呼んでいた。
ちなみに、溜めておく池は”コエ溜め”であり、”野つぼ”と呼んだ。

ボクは”コエタンゴ”を担いだ経験はないが、田毎の月のような急斜面を上がるなど、考えただけでも恐ろしい気がする。足場の悪い道だから一歩踏み外せば”コエタンゴ”もろとも、奈落の底でクソ塗れにならないとも限らないからだ。

余談ではあるが、その”野つぼ”にも、ある種、笑い話がつきまとった。
普段使われているこれは、場所もはっきり分かっていて、そんなところに間違っても落ちることはないのだが、問題なのは忘れられた”野つぼ”と、仕掛けられた罠であった。

”野つぼ”は殆どの場合、農道脇にあった。祖父に怒られてばかりいたボクは、小学校に入ったばかりの夏、毎日のように山を徘徊していた。その日も山を歩き、どこかの畑でキュウリやトマトを盗んで食べていた。

すぐ下には、チョコレート色した”野つぼ”が醗酵して、ブクブクと泡立っている。”野つぼ”を取り巻くように干し草が並べられて、夏の暑さに枯れ草の臭いでむせ返っていた。

何となくである。誰かを貶めようとか、誰かの恨みとかいうものではない。ただ、何となく”野つぼ”へ向かっていた。
そして、枯れた灌木の枝を”野つぼ”の上に渡し、そっと干し草で覆った。

その日の夕方であった。干し草を取り込んだ村のオヤジが、血相変えて怒鳴り込んできた。

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コメント

これも懐かしい

こんばんは
・・たんごは、同じでしたね。
野・・は、家げにはなかったかなぁと、思いますけど。

いたずらっていうか、そんなのが遊びだったんですよね、懐かしいですね。

そうでしたか、同じですか。

そうでしたか、同じですか。

ほのぼのさんの語り口(ブログでの)が、何か懐かしい、温もりを感じます。
あれだけ毛嫌いしていたのに、今となっては懐かしいですね。

やんちゃは日常でしたから、村で”何か”が起きると、いつも私のせいになっていました。私がやっていなくてもです。

人がびっくりしたり、困った顔を見るのを面白がった、どうしようもないガキだったんです。

怒られて殴られ、家に入れてもらえなかったり、時には柱に縛られたり、懲りなかったんですね。


No title

お~い、どうしてる。

なんか最近、動きが少ないように思えるぜ。忙しいのなら、いいんだけれど。

No title

おじゃまします!

こえだめといえば、うちの田舎はついこの間まで ”ぼっとん” でしたので、見かけましたよ。

うちの犬(もう亡くなってしまいましたが)が
田舎に連れて行ったときのこと。

うちの父親が散歩をしていたときに、
田んぼの稲が青々と茂っている様子をみて、
「うわー芝生だ!!!」と思ったんでしょうか、
一心不乱に突っ走り、肥溜めに落ちました。

あわてて父親が救出し、ふたり
なんとも芳しい香りをした状態で
帰ってきました。

さすがにうちの犬も懲りたらしく、
それからは、飛び込む前に
周りの状況を確認をするようになりました。

こまったものです。

nineupさん

そう。今、ハマってるものがあって。
実は、「司馬遼太郎」ものを読み始めて、抜けられなくなっています。

こまったものです。

足下はご用心

ねずみさん

こんにちは。
コメント読みながら、ふ~~~~っと、臭いがした気がしました。
あんな俊敏な生き物でもあるんですね。
あの臭いは、暫く消えないようです。

私の叔父も、小さい時に便所の穴から下に落ちて、大騒ぎしたそうです。
この物語は既にアップしてます。

ともかく、足下はご用心です、ね。

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