昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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(二)その男…4

2013.10.23 (Wed)

(二)その男…4

 杉田は、転がるように去る五人を見送りながら、マイルドセブンに火を点けた。

 いくら人を助けたとはいえ、暴力を使ったことに違いはなく、こんな時の杉田は、決まって罪悪感に苛まれるのだった。暴力で他人を攻撃しケガをさせたりり、勝ち誇ったりすることが、そんなに楽しいのかと。楽しくないばかりか、罪悪感という空しさが、手の届かない胸の奥にへばりついたままになるのだ。

sonootoko01.jpg

 空手を止めてしまった十数年前も、今回と同じようなことがあった。 
 大阪ではその頃から、引ったくりなどの事件件数が全国一位という不名誉な記録が続いていた。
 ある取材の帰り道のことであった。

十月に入って間もない頃である。五時を過ぎると薄暗くなる。千日前を堺筋から西に入った辺りで、女性の悲鳴が聞こえた。振り返ると、六十才台の女性が若者数人にバッグを引ったくられたところであった。

若者は四散したが、偶然、バッグを持ち去る男が杉田の前を横切るところだった。とっさに足を引っかけた。若者は俊敏に避けたが、つま先が当たったと見えて踏鞴(たたら)を踏んだ。杉田は相手の右手をひねり、肘を掴むと真上に押し上げた。カリッと音がした。肩を脱臼させてしまったのだ。

 こういう場合、大阪ではすぐに野次馬が集まってくる。仲間は既に逃走した後であった。いくら被害者を助けるためだったとはいえ、ケガをさせてしまった以上、立ち去るわけにはいかない。

 誰かの通報でほどなく警察が到着。警察からは、女性を助けたのは認めてくれたものの、やはり脱臼させたのはやり過ぎと、厳重注意を言い渡された。

 脱臼男を救急車が運び去り、女性の手にバッグが戻り、野次馬の輪から拍手が起こった。が、杉田の心は後悔と虚脱感に襲われた。
 そんなことがあって以来、杉田はできるだけ、ややこしい場には関わらないようにしてきた。


 その男はまだ、ベンチの前であぐらをかいていた。
 「あんた、ケガはないんか?」と言いながら、バッグの中からハンドティッシュを数枚抜いて、その男に渡した。
 男は無言で受け取り、赤黒く汚れた鼻を拭いていた。
 杉田は、くわえ煙草で男の両脇を抱え、ベンチに座らせた。饐えた臭いが鼻をついた。
 「大丈夫か?」
 男は相変わらず無言で、それでも首を振ってよこした。
 台風の余韻がまだ収まらない。堂島川の川面をさざ波立たせ、中途半端に色づいた桜の葉が舞って、そして落ちた。ものの数分出来事が、さも何もなかったかのような静けさに戻っていった。

 「しかし、くだらんガキがいるもんやな」と、誰に言うでもなく、川面のきらめきに目を細めながら言った。
 杉田が少年の頃は、学年に一人くらいは、いわゆる番長がいて、そしてそれを取り囲む数人のグループになっていた。彼らは、今時の弱い者だけをターゲットにする、くだらない不良グループとは真逆の、正義という一種のイデオロギーを持っていた。


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