昔遊びと悪ガキ

キラキラとした別世界。・・・今考えると、これほど外の世界が魅力的に感じた時代はなかった。

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(二)その男…6

2014.07.06 (Sun)

 黒く筋張って痩せたのど仏が、コクコクと上下した。よれよれのサファリ帽の下から、日焼けして垢のこびり着いた顔が覗き、白髪混じりの髪と鬚が、紙縒り状に固まって肩まで垂れている。元の色が判別できないほど、衣服が濃灰色に染まり、肘や袖の当たりがテカテカ光っていた。

中之島の秋.jpg

「まだ見えへんのんかいな?」
「おっさんの言うように空見とんやけど、なんも見えへっ・・・、おっ、分かったで。あれやろ、おっさん」
 杉田はフェンスを掴んだ。ヒルガオの蔓が小さく揺れた。それと同時に、男はベンチから立ち上がり、杉田と同じようにフェンスを掴んで、空を見上げた。

「何が見えた言うんや?」
 男はよれよれの帽子を脱いだ。
 眩しい日射しが、垢のこびり着いた顔を照らした。
「地ベタやろ。地球が動いとる言うんやな」
 杉田は、嬉しそうに応えた。

 すっかり忘れていた記憶がふいに蘇った。まだ幼い頃、真っ暗な山頂で寝転がって見た記憶。星明りの中の稜線のシルエットに、吸い込まれるように落ちていく星々。銀河の滝のように、恐ろしいほどの勢いで落ちていった。

 ビルと空の境界線に、生まれては流れ、消えてはまた生まれる雲。とてつもない大きな地球が、その何万倍も大きな太陽の回りを回っているなんていう実感はないのだけれど、今ははっきり、自分が立っている地面が動いているのだと、初めて遠い記憶と符合した気がした。

 杉田は、太陽が見え隠れする慌ただしい空を見上げた、その男の横顔が、わずかに微笑んだかのように見えた。

「にんちゃんは、なんでワシなんか助けたんや?」
 その男の顔は、空に貼り付けたままであった。
「何でか分からん」

 分からないと言ったが、これが正直なところであった。青臭い正義感がなかったわけではないが、他人事の、しかも面倒臭いことにわざわざ関わるべきではなかった。なのにそういう気持ちと関係なく、身体が動いてしまった。

「そやけど、にいちゃんは強いんやな。格闘技かなんかやっとんかいな?」
「大昔な」
「ワシ、にいちゃんみたいに強けりゃな・・・」

「腕力が強うても、役に立たへんことなんて、なんぼでもあるわな。本当に強い人間いうのは、手なんて出さへんもんやで」
「ほんでも、自分を守るくらいでけたらと思うで」
「それは、思う。でもやで、本当に強い相手には、腕力で立ち向かうなんてでけへん」

「分かるなあ、それ。そないな時、どないしたら良かったのやろ・・・」
 その男は、ドブ色の川に目を落とした。
「おっさんアンタ、なんや、ややこしいことがあったみたいやな」
「ややこしで。もう忘れてもたけどな」

 男は自嘲気味に口を歪めた。
 杉田は、この辺りが潮時だと思った。このままだと、この男の身の上話を聞いてしまいそうな気がした。そろそろ腹もへったことだし、三百円の牛丼を食って、あのヤニ臭い事務所でテレビでも観ながら居眠りしようと思った。

 しかし、


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